楽屋裏 - プログラム電卓メモワール2006-9
追記 2019/06/15
更新 2019/12/27
今回はカシオ電卓のカタログ2006年9月版を紹介する。前回紹介のカタログから一気に16年後のものだ。
全16ページのうち関数電卓が4ページ。特筆すべきなのは、ポケットコンピュータのカテゴリが消え去っていることだ。
⇒ 2006年9月版カタログの関数電卓のページ
今回のカタログでは、fx-5800P が NEW として初めて掲載され、一方で FX-603P がカタログから消えた。
FX-603P 掲載カテゴリの謎
前回紹介した1990年12月のカタログの後から今回紹介するカタログの直前まで、実際に確認できる範囲では1994年1月のカタログ以降、2005年1月のカタログ までは、FX-603P はプログラム関数電卓のカテゴリには掲載されておらず、ポケットコンピュータと同じカテゴリの中で "プログラム関数電卓" として掲載されていた。これは、どういうことなのだろうか?
[2019/06/15 追記]
sentaro様から以下を教えて頂いた。
FX-603Pと同じCPUを持つポケコンには FX-840P、FX-860P、FX-860Pvc があり、これらは共通してRS232Cシリアルインターフェスを持っており、共通のインターフェース機器 FA-6s が使えることからポケコンとして共通のハードウェアを持っている。このことから FX-603P がポケコンと同じカテゴリに入れる理由は十分にある、とのこと。
さらに、今回のカタログから FX-603P を含めてポケットコンピュータのカテゴリが消えた。1981年7月のカタログでポケットコンピュータが新発売になってから25年後に、カシオはポケットコンピュータを FX-603P と共に終焉させたことになる。
長い間、業務用としても使われ続けていたのが FX-603Pやポケットコンピュータであり、ユーザーに支えられ市場の要求に応え続けてきた。そして fx-5800P の登場で FX-603P は製品寿命を終え、安価なノートPCの登場でポケコンは製品寿命を終えたのだと思う。
16年販売が続いた FX-603P の真の後継機と考えられる fx-5800P がついに発売されたタイミングで発行された今回のカタログは、新旧交代の瞬間を捉えた貴重なもので、感慨深い。

NEW とあるのでちょうど発売開始のタイミングでのカタログだ。
fx-4850P、fx-4800Pは生産中止となり (★印が生産中止を意味する)、しばらく販売は並行していた。

fx-4500PA の謎
何故か fx-4500PA が生産継続になっていた。fx-4500PA は2行出力1行入力で、プログラム処理速度は極めて遅い。一方、fx-4800P や fx-4850P は4行出力4行入力で、さらに処理速度が遙かに速い。これら3機種の言語仕様は殆ど同じだ。それにもかかわらず高性能で使いやすい fx-4800P や fx-4850P を生産中止にし fx-4500PA を生産継続する理由がよく分からない。
▶ fx-4500PA取扱説明書 ▶ fx-4800P取扱説明書
4行表示の fx-5800P を新たに投入し、販売促進のために、同様に4行表示の fx-4850P と fx-4800P を強制的に退場させたかったのだろうか? それにしても2行表示の fx-4500PA を残す理由はどこにあるのだろうか? 謎である。
[2019/06/15 追記]
sentaro様から以下のコメントを頂いた。
fx-4500PAが fx-4850P や fx-4800P に勝っているのは、おそらく電池の持ちが良い点のみだが、これは電卓として重要なポイント。また、今でも残っている2ライン出力1ライン出力のシンプルで小型の電卓と言える。逆に言えば、これくらいしか fx-4500PAが残る理由が考えにくい、とのこと。
[2019/12/27 更新]
新たに発売開始された fx-5800P は、ハードウェア設計やメニューからコマンドを選択する方式に着目すれば、fx-4800P / 4850P からの世代交代機である。一方でプログラミング言語自体は fx-4000P の直系であり、その後 CFX-9850G シリーズ、そして fx-9860G に引き継がれ、さらに改良が進んたものが fx-5800P に搭載されている。往年の名機 FX-603P を引き継ぐただ1つの製品という位置づけにあることは、カタログが物語っている。そして fx-9860G よりも fx-5800P がいくつかの点で進化している。例えば 入力命令 ? の追加、また [FILE]キーでプログラムリストを呼び出して実行したり、プログラムのお気に入り登録ができるようになった。関数電卓としては、多くの公式がプレインストールされ、新たに数式を公式として登録でき、一般によく使う関数キーが残っているなど、グラフ関数電卓と、スタンダード関数電卓の良いとこ取りのバランスの良い設計になっている。
私自身は 2007年5月に fx-5800Pを購入し FX-603P を引退させ、現在まで fx-5800P をほぼ毎日利用している。
=== 更新ここまで ===
さてこの時期のグラフ関数電卓は CFX-9850GC PLUS だ。

CFX-9850G は3色カラー表示のグラフ関数電卓で、ここに掲載されているのは CFXシリーズの最終型だ。★印が付いているので既に生産中止品だ(2005年1月のカタログではNEWが付いていて新発売なので、1年8ヶ月で生産中止)。しかし次機種の掲載がないので、次機種の販売開始が近いことを示している。後継機種である fx-9860G は、2006年9月にはまだカタログに掲載されておらず、まだ国内販売されていない。海外では、このカタログ発行の前年 2005年に発売されている。
ところで、右のTVインターフェース付きの機種は驚くほど高価で、アナログRGB出力というのも時代を伺わせる。今であればUSBでPC接続や Type C HDMI 出力ではなかろうか。
Casio Basicの系譜 [2019/06/14 修正]
プログラム言語に着目すれば、CFX-9850GC PLUS 搭載のプログラム言語を進化させた fx-9860G が海外で2005年に登場し、そこからグラフ描画機能とI/Oコマンドを無くし、旧来の命令 (" "、◢) を改善し、新たに ? (入力)命令を追加したものが fx-5800P に搭載された 。製品の市場投入の時系列に加えて、実際に両者でプログラミングをしてコマンドを詳細に調べた結果から、このように結論づけて良いと思う。(参考:fx-9860GII への移植 - 厄介な旧来の命令)
fx-9860G のアップデート機 fx-9860GII には文字列処理機能が追加され、さらに高精細カラー液晶搭載の fx-CG10 / CG20ではカラーコマンドが追加された。
CFX-9850GC PLUSの構造制御コマンドには、例えば IF ~ Then ~ Else ステートメントで Then や Else の直後で改行できない、改行だけの空行はエラーになる、While / Do ループ内に複雑な制御構造があるとスタック処理に失敗してエラーになるなどの惜しい欠陥があったが、次機種の fx-9860G では解決された。fx-5800P でもこの問題は解決されている。fx-4500P 以降の シリーズ最後の fx-48500P までは代入に = を使うが、グラフ関数電卓や fx-5800P では → を使う。fx-5800P 搭載言語は、fx-4000Pシリーズの系統ではなく、グラフ関数電卓の系譜だと言える。
ウィキペディアの間違い [2019/06/14 追記]
ウィキペディアで "プログラム電卓" のエントリには、プログラミング言語の項でキーストローク方式を採用している機種に "カシオのfx-5800Pなど" と記載があるが、これは明らかな誤りだ。"カシオのFX502P, FX602P, FX-603P, fx-4000P シリーズなど" と書き換えるべきだ。或いは単に fx-4800P と書くべきところを 誤って fx-5800P としたのかも知れない。
ちなみに英語版 Wiki Pedia の Programable calculator のエントリーでは、この誤りは見られない。
・楽屋裏 - プログラム電卓メモワール1981-2
・楽屋裏 - プログラム電卓メモワール1981-7
・楽屋裏 - プログラム電卓メモワール1990-12
・楽屋裏 - プログラム電卓メモワール2006-9
・楽屋裏 - プログラム電卓メモワール2007-12
・楽屋裏 - プログラム電卓メモワール2009-10
・楽屋裏 - プログラム電卓メモワール2012-03
・楽屋裏 - プログラム電卓メモワール2013-8
・楽屋裏 - プログラム電卓メモワール2012-12
・楽屋裏 - プログラム電卓メモワール2018-01
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