Casio fx-JP900 (その3)
更新 2015/08/05

fx-JP900 は、なかなかエポックメイキングな新製品で、高精細液晶(黒液晶)の採用と日本語表示、CPUの高速化というハードウェアの大きな進化が見られます。
実は、fx-JP900 の1つ前のモデル fx-995ES は、ソフトウェアにおいて関数電卓としての新機能搭載と重要な改善が多くなされましたが、デザインや主要なハードウェアは fx-993ES に近いもので、fx-JP900 への移行モデルだった、と言えます。fx-995ES は、そのソフトウェア改善だけをとっても、エポックメイキングなモデルだと思っていました。
そんな fx-995ES を経て、ハードウェアが大幅に更新され1つの完成形としてJP900 が登場しました。当然ながらソフウェアについては、多くは fx-995ES を踏襲していますが、3桁区切り記号の追加など重要な改善もみられます。
fx-JP900 のソフトウェア上の新機能のなかで、統計計算での四分位数計算の追加、これまでグラフ関数電卓限定で今回初めて関数電卓に搭載された表計算機能があります。表計算については、Casio fx-JP900 (その2) で取り上げています。今回は、四分位数について、そしてCPUの高速化を見るために積分計算について取り上げます。
fx-JP900 は単なる関数電卓ですが、新機能が搭載され、高精細液晶が搭載され、さらにCPUも高速化されたことから、近い将来のプログラム電卓への展開が気になります。
以下は、Casio fx-JP900(その2)の追記部分の後半の分量が多くなったので、別エントリーにしたものです。
全般的な操作系
fx-995ES、fx-993ES そして fx-5800P まで遡っても、fx-JP900 はキー配置の共通性が高いので、戸惑うこと無く操作できるのが有り難いです。ここにも、過去からのユーザーの継続利用を十分考慮したカシオらしさが現れています。
四分位数と箱ひげ図 - 統計とCLASSWIZ [2015/06/04 追記あり]
fx-995ES で初搭載され、fx-JP900/JP700/JP500 にも含まれている四分位数(第1四分位数、中央値、第3四分位数)の計算ですが、四分位数はよく知りませんでした。そこで、ネット検索してみたところ、2012年度から高校の数Iで教えるようになったとあります。不勉強なことに、これをグラフ化した箱ひげ図についても、どこかで見た気がする程度で、よく知りませんでした。
fx-JP900 の QRコード表示機能を使い、CLASSWIZ のWebサービスで箱ひげ図を表示してくれるので、興味を持ちました。
ざっと調べてみると、バラツキが大きいデータをざっくり分析するのに、四分位数や箱ひげ図が用いられるらしい。私自身はこれまで本格的とはいかないまでも、多くのデータを解析するのに、標準偏差、分散、二乗平均、平均、移動平均、差分、ヒストグラム、ガウス分布、ポアッソン分布、ワイブル・プロットなどの考え方を使っていますが、これで特に困ることはありませんでした。高校で必修になった四分位数や箱ひげ図は、ビッグデータ時代を反映しているのだろうか?と思い、仕事でも役に立つ可能性を感じたので、ちょっと調べてみました。
面白いことに、極めて多くの高校教科書では間違った記述がなされているらしいことが分かりました。
- 小林道正, データ分析における「「箱ひげ図」の誤解、中央大学論集, 第34号 (2013)
全く異なるヒストグラムを示すデータでも、箱ひげ図は全く同じになることが当然ありますが、箱ひげ図で示される四分位範囲が広いか狭いかで、データの散らばり具合(分散)を論じている点が、誤りだという指摘がなされていて、確かにその通りです。
教科書の著者や検定を行った人が、大きな勘違いをしていたと言うことでしょうか?だとすれば、ちょっとお粗末です。このような教科書で教えられた高校生は気の毒です。但し、現場の先生達はきっと誤りを修正して教えておられることとは思うし、2013年の教科書の誤りは、2015年版では既に改訂されていることを祈ります。
箱ひげ図と散布図を1つのグラフに書き込んで一緒に眺めたら、全体の傾向と特異的なデータを同時に把握できるので、これらの併用が良さそうだと思います。実際のデータ分析を行う時、特に箱ひげ図が役立つ局面がまだよく分からず、個人的にはもう少し勉強してみようとは思います。
但し、電卓のおかげで、良いきっかけをもらいました。プレゼンで話をうまく誘導する目的で使えそうです(但し自分で自分を騙してしまうことには要注意ですね!)。
[2015/06/04 追記]
仕事で色々な技術資料を目にしますが、今回の記事を書いた後、箱ひげ図にお目にかかりました(アメリカ人技術者が作った図です)。過去に箱ひげ図を見た記憶があまり無いのですが、そもそも知らなかったから気がつかなかったのかも知れません。

上で、箱ひげ図は散布図と一緒に書けば、使い物になるだろうと書きましたが、まさに散布図と一緒に描かれています。少ないサンプル数の場合は、このように役立つことが分かりました。散布図だけよりも、箱ひげ図を重ねて描くことにより、中央値やデータの広がりが一目瞭然です。
=== [2015/06/04 追記] おわり ===
CLASSWIZ - グラフ表示のクラウドサービス
CLASSWIZ のWebサービスは、QRコードの表示ができる局面が限られており、主に学習用に考えられているように思います。 式情報をQRコードで渡して Web上でグラフ化するのは、クラウドサービスによる電卓の機能拡張と言え、グラフ描画機能がなくてもグラフが書けることを証明しています。面白いサービスですね。積分した結果をグラフ上の領域で表示するなどが出来れば、さらに面白くなりそうです。
また、電卓の液晶画面上の数式を、クラウドで画像ファイル化するのは、どのような用途を想定しているのでしょうか?
素因数分解
fx-995ES で素因数分解の機能が追加され、fx-JP900 にも搭載されています。fxJP900 では素因数分解が改良され、処理速度が速くなっています。幾つかの素因数分解結果を、fx-995ES、fx-JP900、fx-5800P のプログラム、カシオの高精度計算サイトKe!san で行った結果を一覧にしてみます。
整数 | fx-995ES | fx-JP900 | fx-5800P | Ke!san |
1,234,567 | 127x(9721) | 127x9,721 | 127x9721 | 127x9721 |
98,765,432 | 23x37x(333667) (1.7秒) | 23x37x333,667 (0.4秒) | 23x37x333667 (27秒) | 23x37x333667 |
9,516,208,473 | 32x172x(3,658,673) | 32x172x(3,658,673) | 32x172x3658673 | 32x172x3658673 |
123,456,789 | 32x(13717421) | 32x(13,717,421) | 32x3607x3803 | 32x3607x3803 |
fx-JP900 では、fx-995ES よりも計算速度が大幅に向上しています。
因数分解できない場合は ( ) 付きで表示される仕様で、そこは fx-955ES も fx-JP900 も同じ。fx-995ES は素因数が4桁以上で ( ) 付きになっていましたが、fx-JP900 では素因数の桁数制限が大幅に緩和され、上の例ですと6桁まではOK。
ところで、fx-JP900 の取扱説明書17ページを見ると、素因数が 1,018,081 以上の時は計算エラーになると書かれていますが、上の1つめ、2つめ、3つめの例では、( ) 付きで結果が表示されています。これ以上計算できないが、たまたまそれが素因数だったと解釈すれば良さそうです。( ) 付きの場合は、それが正しいかどうかの保証が無いと言うことでしょう。
4つめの例では、( ) 付きの結果は、さらに因数分解できるが、これ以上計算できないことを示しています。
fx-JP900 では計算速度が速くなったことは、積分計算の速度向上で明かなのですが、計算可能な素因数の桁数が増えた理由に興味があります。計算速度が向上したらたタイムアウト設定を変えただけとは考えにくく、使用するメモリ量を増やしたのかロジックが変更されたとも考えられます。
なお、fx-5800P は自作プログラムで計算していますが、電卓の精度が保証されている10桁以内なら、時間が多少かかっても正しい結果が得られています。精度範囲ならば桁数制限とは無関係に計算するアルゴリズムなので、当然ではありますが、それにしても時間がかかります。桁数制限があっても高速化できないだろうか?と少し考えてみています。
⇒ Casio 関数電卓の素因数分解
積分計算
遠藤先生による関数電卓マニア のページで、以下の積分計算をさせてみると、fx-995ES に比べて fx-JP500 で非常に速くなったとの記載があります。

そこで、実際に fx-995ES、fx-JP900、fx-5800P、fx-9860GII (ノーマルクロック、29MHz) で、実行時間を比較してみます。
さらに時間のかかる別の積分(下記)も測定してみます。

この積分区間の下限は、0 としたいところですが、数値計算をするとき x = 0 の場合に ln x がエラーになるので、電卓の仕様上精度が得られる範囲での最小値(1x10-10)を使っています。
ちなみに積分の式は、fx-JP900 で入力してQRコードを取得し、CLASSWIZのサイトから得た画像です。
機 種 | 積分1![]() | 積分2![]() | ||
計算結果 | 1 | 0.5 | ||
fx-995ES | 25.6秒 | 4.7 | 241秒 | 4.9 |
fx-JP900 | 5.5秒 | 1 | 48.7秒 | 1 |
fx-5800P | 10.1秒 | 1.8 | 56.7秒 | 1.2 |
fx-9860GII | 1.5秒 | 0.27 | 8.4秒 | 0.17 |
fx-995ES に対して fx-JP900 は、両方の積分ももぼ同じ比率で高速化されています。
一方、fx-JP900 に対して、fx-5800P と fx-9860GII は、積分1と2で処理時間の比率に差が出ています。積分1では、fx-5800P に比べて、fx-JP900 が大いに健闘していますが、積分2では差が少なくなっています。
この差が何によるのか? 興味はありますが、まだよく分かりません。
関連ページ:
- Casio fx-JP900
- Casio fx-JP900(その2)
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